「茶の湯」は、海外で「chanoyu」と表記されることもある、日本文化を代表する作法の一つです。「おもてなし」の精神やマナーを知るために学ぶ人も多く、町中では茶道教室の体験や気軽に参加できるお茶会などが開催されています。
本記事ではこれから茶の湯の勉強をしたいという方や、初心者の方へ向けて、その特徴や歴史についてご紹介していきます。後半では作法の概要についてもご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
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茶の湯とは?
現代では、茶の湯と茶道は、言葉の意味としては同じものという捉え方も多いです。一方で普及当初の茶の湯と、現代の茶道では、考え方やルールが異なる部分もあります。捉え方によって言葉の定義が変わりますが、本記事では、普及当時のものを茶の湯、現代のものを茶道として説明していきます。
それぞれの違いを理解するために、まずは茶の湯の特長となるポイントを見ていきましょう。
茶の湯の特長
- ・亭主が客人の見えるところでお点前をする
- ・数時間かけてその場の空気を楽しむ
- ・茶道具の美しさを楽しむ
それぞれの詳細は以下の通りです。
ポイント1.亭主が客人の見えるところでお点前をする
この文化が定着するまでは、
- ・別の部屋で点てた抹茶を運んでくる
- ・部屋の押入れに道具を置き、客人に動作を見せないようにお茶を点てる
などの方法がとられていました。
ポイント2.数時間かけて楽しむ
ポイント3.茶道具の美しさを楽しむ
当時の美意識について、歴史的資料の中では「冷え」「枯れ」と表現されていました。
茶道に向かう際の気持ちの状態として「無常観」を良しとしており、冷え枯れはその無常観が最高となっている理想的な状態です。当時流行していた、和歌を作る際の心境として先に言われていた言葉です。
また茶の湯では慢心を良しとせず、良い道具を持った上でその味わいを知り、心の成長に合わせ位を得ることが良いとされていました。これは現在の茶道にも継承されている姿勢です。
茶の湯と茶道の関係
茶道では道具に加えて、茶室の内部のしつらえや庭などの美しさを鑑賞します。
また茶室の入り方、座り方、お辞儀の仕方、立ち方、歩き方などについても「作法」という伝統的な決まりがあります。亭主が客人をもてなしておいしいお茶を振る舞うため、また客人は振る舞われたお茶をおいしくいただくために、歴史とともに作られた文化です。
日本人の精神として取り上げられることも多い、「おもてなし」の精神に通じるものがあります。
四規七則
「四規」とは「和敬清寂」の精神です。
- ●和:和やかな心である
- ●敬:お互いに敬い合う
- ●清:清らかである
- ●寂:動じない心を持つ
という意味があります。
「七則」は、「おもてなし」の際の大切な心構えを指しています。
- ●一生懸命に心を込めてお茶を点て、客人に味わっていただく
- ●炭に火をつけるには、形式を学ぶだけでなくコツをつかむ必要があるように、本質を見極める
- ●夏は涼しく冬は暖かく感じられるように、装飾やお菓子を工夫するなど、季節を大切にする
- ●自然から与えられた花などの命を尊いものとして扱う
- ●時間にゆとりを持ち、ゆったりした心持ちで相手との時間を大切にする
- ●いつでも落ちついて行動できるよう、心の準備と実際の用意をしておき、柔軟に対応する
- ●同じ空間に居る相手をお互い尊重し合う
の7つです。
千利休が教えたこれらの心得は、現代まで受け継がれています。
茶の湯のはじまりについて
室町時代(1392-1491)には、「唐物」という中国から伝来したものや文化が流行し、茶会が行われる機会が増えました。当初は自宅で飲む他、寺の前にある「茶屋」や観光地などにある「荷い茶」などで飲むことができるものだったそうです。普及が広がっていく中で、俗世を離れて修行をしていた「珠光(しゅこう)」という僧が始めたのが茶の湯のはじまりと言われています。「和物」とも呼ばれる日本製の茶道具を使い、先述のような特長のある茶会や茶事が行われるようになりました。
なお、茶の湯という言葉が一般的になった時期は明らかになっていないのですが、1484年の『本法寺法式』という史料に記述があります。この中では、謹慎中の僧が人と集まって茶の湯をすることを禁止しています。
珠光が始めた茶の湯の精神は「わび茶」とも呼びます。珠光以降の世代は、「武野紹鷗(たけの じょうおう)」という人物がわび茶を受け継ぎました。さらにその弟子である千利休が安土桃山時代(1573-1603)に、今日の茶道につながるわび茶を完成させました。
千利休のわび茶は4代目以降、「表千家」「裏千家」「武者小路千家」といういわゆる「三千家」に分かれました。その他にも、今日までに多くの流派が誕生しています。
茶道の作法
ここでは初心者の方やこれから茶道を習いたいという方へ向けて、客人として茶会に参加する際に押さえておきたいポイントを以下の5つに分けて説明します。
- ●茶室への入り方
- ●座り方
- ●お菓子の受け取り方
- ●お菓子のいただき方
- ●お茶のいただき方
なお茶道の作法は流派によって異なることも多いので、ここでは一般的な内容として、裏千家の作法をご紹介します。先生や教室によっても細かな点が異なる場合があるため、あくまでも参考程度と考えてください。
茶室への入り方
準備の間は客人専用の入り口にある扉は閉まっており、手を入れられる程度に少し開くと「入室してもよい」という合図です。裏千家の作法では、正客を先頭に一人ずつ右足から茶室に入室し、一畳を4歩で歩きます。
客人達が入室する際、亭主は室内におらず、一旦茶室の外に出て待機しています。そのため最後に入室する客人には、全員が入室したという合図を送る役割があります。「詰め」とも呼ばれ、正客の次に重要とされています。詰めの客人は自分が入り終えたら音を立てて襖を閉めて、亭主に知らせます。入室の合図を受けた亭主はその音を聞いて、茶会や茶事を開始します。
座り方
座る際は、女性の場合はこぶし一つ分、男性は二つ分ほど膝の間隔を空けて、若干足を開いた状態で座ります。
お菓子のいただき方
受け取りの作法は以下の通りです。
まずは菓子器に手を添えながら、共有のお箸で菓子を取り、懐紙に載せます。取り終えたら次の客人のため、お箸を懐紙で清めてから元に戻します。懐紙の角を折り、その間にお箸を挟んで軽く拭いてください。戻し終えたら、次の客人の前にあたる畳の縁の外側へ菓子器を移動します。
なお菓子が無くなった場合は菓子器を180度回転させ、正面を逆方向へ向けて置くことで、下げてほしいという合図を送ります。
お菓子をいただく際は、束にした懐紙の上にお菓子を載せ、手で持ち上げてお盆のようにした状態でいただきます。手盆を安定させたら楊枝を出し、懐紙の上でお菓子を食べやすい大きさに切りましょう。落とさないように気を付けてください。
お菓子を食べ終えたら、懐紙をしまいます。汚れている面が内側になるように懐紙を下から折り曲げます。手盆で使った懐紙の束は下に置き、先ほど折り曲げた懐紙をさらに半分に折って、楊枝を拭きます。使い終わった楊枝は元の入れ物に戻し、すべてまとめて懐紙の間に挟みます。最後に懐紙を袱紗の中にしまいます。
お茶のいただき方
お茶碗を右手で取り、左手に乗せましょう。右手で茶碗の向こう側を持って、時計回りに2回茶碗を回します。回す角度に決まりはありませんが、茶碗の正面をずらして正面に口をつけるのを避けることで、亭主に対して謙虚な気持ちを示します。その後右手を茶碗の横に添えなおし、お茶をいただきます。しっかりと口に含み、静かに味わいながら全ていただきましょう。
最後の一口をいただく際は音を立てるようにして吸い、茶碗の中にお茶を残さないようにします。いただき終わったら茶碗の口をつけた部分を指で軽く拭き、その指を懐紙で拭き清めます。
お茶を飲み終わったら、茶碗を元の正面の位置に戻し、茶碗の美しさを楽しみます。畳の縁の外側へ茶碗を戻してから、畳に手をついて茶碗全体を眺め、その後再度手に取って茶碗を近くで見て楽しみましょう。茶碗は亭主の貴重な持ち物なので、高く持ち上げずに低い位置で見るのがマナーです。
まとめ
茶道は流派によっても作法が異なり、非常に奥深いものです。一方では自由に参加できるようなお茶会も、各所で開かれています。ぜひ身近な茶道教室やイベントに足を運んでみて、日常に和の心を取り入れてみてください。